6 ガルマ出撃す
今回のテーマは「亀裂」。もっと言うと「役に立たない味方」だ。連邦もジオンも、一枚岩ではないし、内部に亀裂を抱えている。これまたガンダムのおもしろいところなのだが、どちらも強い同士で「どちらが勝つか」ではなく、「どちらも弱いがどちらが勝つか」という、実は「弱さ勝負」になっている。今回は描写が大変ややこしく、整理しきれてない感じなので、読み取りにくい箇所が多いのだが、まずはジオン=ガルマとシャアについて、次に連邦軍について見てみよう。
ガルマとシャア
この二人、士官学校時代からの「親友」ということになっている。が、お互いのやりとりが非常に「含みがある」。シャアはどうやらガルマに対し何か狙いというか、恨みがあるらしいということはわかるのだが、ガルマもガルマでシャアに対して、ありえんくらい嫌味なのである。
よう シャア 君らしくもないな 連邦軍の船一隻に手こずって
シャアをすごいと認めているようでもあるし、こうしたことを気にせず言い合える=仲が良いということかもしれないが、バカでなければ、これはフツーに嫌味と取るし、そう取られることを前提で口にしてないとおかしいだろう。そしてシャアは.....バカではない。
赤い彗星といわれるほどの君が しとめられなかった船とはね
しかも、一回だけならまだしも、同じようなセリフをもう一回繰り返す。こんなの確実に嫌味だろう。自分ならこういうこと言われたら「こいつは私が嫌いなのだな」と決めつける。そうするのに十分すぎる発言の連続だと思う。
さて、この新キャラ、ガルマ・ザビのキャラクターなのだが、
ザビ家の末弟
シャアとは「親友」であり士官学校時代からの仲
やたら計算やデータを重視する(「ああ、その点から計測できる戦闘力を今計算させている」)
どうやら一族、特に姉に対して強いコンプレックスを抱えている(「これでキシリア姉さんにも実力を示すことができる」)
といったことが読みとれる。
現実に対する認識も甘けりゃ詰めも甘い。シャアが
大気圏を突破してきた船であるということをお忘れなく
とか、
しかしジオン十字勲章ものであることは保証するよ
などと、結構しつこく「ホワイトベースを甘くみるな」と言っているのに、
ありがとう これで私を一人前にさせてくれて...
である。
もう戦いに勝ったも同じであるかのような物言いだ。
「戦ってもいないのに勝った気でいる」のも甘々だし、この時点で、ガルマはなんだかんだ言ってシャアのことを自分より下に見ているしそのことを隠していないことが読み取れる。というか「相手を自然に下に見てしまう」こと自体を一切気にしていないような悪い意味での「育ちの良さ」をガルマには感じざるを得ない。
姉に対しても私の男を上げさせようという心遣いかい?
ガルマのこのセリフでシャアは笑い声をあげる。この笑い声の「理由」はいくらでも思いつく。
「戦ってもいないのにもう勝った気になってやがる」
「失礼なことをそうだと思わず言ってることに気づいていない」
「なるほど、これではガルマはホワイトベースに勝てん、いよいよ死んでくれそうだ」
「姉に対する自身のコンプレックスを開陳して平気とは情けない男だな」
もう、どの推測でもあてはまりそうだ。それくらいガルマは賢いだけでバカなのだ。本人は冷静だと思っているようなのだが。
https://gyazo.com/9358a1fa5f42a5ceef84320732ecd051
結局、ガンダムの活躍の前に退却することになるガルマ。要するに圧倒的軍事力を使ったのに勝てなかった無能なのだが、ガルマは次のように言う。
見ただろう 敵の威力を... / 私はあれを無傷で手に入れたい / あれは今度の大戦の戦略を大きく塗り替える戦力だ
「ろくに傷つけることできずに退却せざるを得なかった」のが現実なのに、その現実に合わせて「無傷で手に入れる」と決めたのだと、願望のほうを現実に合わせてる。言ってることが完全にすっぱい葡萄だ。
何か作戦や計画があるのならまだしも、特に無策なのに、それだけ強いものを「自分の手に入れる」、しかも無傷でそれをするのは流石に無理すぎる。「敵の戦艦、すごく強い? だったらそれを奪っちゃえばよくない? 傷一つつけずに」。いや、それができりゃ苦労しねえんだよ。
そして退却したガルマは、シャワー中のシャアところまで、わざわざ文句を言いにくる。「なぜあの機密のすごさを教えてくれなかったのだ?」。教えなかったのではなく、先に見た通り、シャアは「みくびるな」と念には念をおしている。それなのに甘くみた上、シャアには「休みたまえ」とまで言ったのはガルマだ。だからシャワー浴びてゆっくりしてるってのに、その休んでる最中のシャアに「なんで教えてくれなかった」と恨み節。もう完全にガキである。
https://gyazo.com/10c88c6ee65cf548323865042d38a188
「俺も協力する / 君の手助けができるのはうれしいものだ」とシャアは返すのだが、これに対するガルマの次の発言がまた開いた口がふさがらない。「これでキシリア姉さんにも実力を示すことができる」。本当にバカである。
シャアの力を借りて戦果を挙げることが「実力を示す」「男としての力の誇示」だとガルマは思っている。が、じゃあ、なんでシャアはガルマの部下なのか、直接の上司が姉キシリアなのか(シャア「キシリア殿は君の直接の上司だったな」)というと「頼りない」「あぶなっかしい」「実力がない」「サポートないと死ぬ」とみんな思っているからで....。
https://gyazo.com/b76eb9c6bdac5d196758b69c9bdf63eb
私はよい友を持った。ガンダムの名台詞の一つなのだろうが、この発言からわかるのは、二人は親友などではまったくないということだ。身分だけで取り立てられているだけのみそっかすのお飾り・ガルマ。同期にシャア=赤い彗星がいるかぎり、ガルマが認められることはないのだが(だからガルマはそのあだ名をいじっている)、そのシャアの力を借りないと何もできないのがガルマなのだ。
ガルマは無能だし、実力もない。信頼できない「味方」なのだが、その無能で実力のないガルマのおかげでシャアは束の間の休息を得ることができた。確かにホワイトベースには逃げられっぱなしである。いわばシャアは将棋の駒をどんどん取られていってる状態なのだが、駒を取らせて、自身は「休息」という駒を手に入れた、という感じ。
アムロとホワイトベースの仲間たち
対するアムロも仲間の無能っぷりにその疲労は限界を迎える。
アムロは仲間にある意味では「恵まれて」いる。みんなアムロが疲労しきっていること、アムロにばかり頼っていてはいけないと理解しており、なんとかアムロを休ませてあげたいと願っているからだ。
ブライト:リード司令官は「ガンダムを出動させれば事は済むんだよ / このジオン軍の壁を突破するにはそれしかない!」と言うのだが、これに対してアムロの疲労を気遣い、軍紀違反までしてリードの指示に従おうとしない。
ハヤト:アムロの単独負担を少しでも軽くするために、自らの危険も顧みずアムロと自分との二人でガンダンク操縦し出撃することを提案。
フラゥ・ボウ + セイラ:栄養ドリンクを差し入れるなどアムロのことを気に掛けるフラウ。冷静に細かく作戦を伝え、アムロをサポートしようとするセイラ。
他方でアムロはまったく仲間に「恵まれていない」。アムロがいないと結局のところ、戦況はどうしようもないし、アムロのことを気遣った作戦をされたほうが、逆にアムロの負担が結局増えているからである。
ブライト:
ガンダムを出せばいいだけだと上官のリードが言ってるしアムロも「自信の問題じゃない / やるしかないんでしょうブライトさん」とまで言ってくれてるのに、ハヤトの提案を受け入れ上官の意見を否定してまでガンタンクでの出撃を命令。
ところが結局、ガンタンクではどうにもならず「アムロ!ブライトだ 君に頼みたい / マゼラアタックに対してガンタンクは小回りが利かない / ガンダムで...ガンダムでやってくれるか?」と後でお願いする始末。結果アムロは(換装する時間もないから)ダッシュでガンタンクからガンダムに乗り換えなければいけなくなる。この乗り換えの時間と労力の分だけ、アムロはますます疲弊する。
「ガンダムは空中戦用の兵器ではない、ましてアムロです」とリードに偉そうに言っていたが、結局このあと、アムロが操縦するガンダムによる地上戦のおかげで勝つ。ブライト、戦況まったく理解できていない。
アムロの代わりにガンタンクをリュウに操縦させようとする。リュウじゃ勝てないって......。だからアムロは言う。「了解です。ガンタンクはカイかセイラさんに操縦させてください / セイラさんならできるはずです」。カイがガンタンクに、リュウがコアファイターに乗ることに。ブライトの言う通りしてたら勝てない。
リードに歯向かう姿勢こそかっこいいが、①ガンダムを出撃させる、②他のモビルスーツやコアファイターもすべて使うという作戦は結局、リード司令官が最初に言っていた作戦とほぼ同じ。「ホワイトベースに関しては初めて扱われるあなたよりは私たちのほうが慣れています」「敵の包囲網を突破してご覧に入れればよろしいのでしょう?」などとリードに言い放つ威勢こそいいものの、その判断がすべてズレている。
https://gyazo.com/a00d4b2c607def21b10d98da7f2ec5d2
ハヤト:
なんとかアムロの力になろうと頑張ってはいるし、いい作戦も思いつくのだが、いかんせんバトルの実力がまったくない。ホワイトベースから出たらなるべく離れ、敵の隊列を混乱させよう、ガンタンクなら敵の注意を十分にひけるんだ、敵の戦力を分散させようと「戦略」を提示するのだが、アムロからすりゃ「なんだそりゃ」である。敵の狙いはホワイトベース、離れたら援護できなくなるからだ。
最終的にホワイトベースから離れて敵隊列を分断するというのは「正しい」のだが、それはガンダム+アムロの圧倒的なパワーがないと最初から無理だ。結局、アムロに「敵の的になってね」と言ってるのに等しく、いや、だからそれ、最初にぼくがそれするしかないって言ったやつじゃないか....とアムロがイライラするのもわかりみしかない。
それなのにブライトが「ガンタンクからガンダムに乗り換えろ」と言うと、ハヤトも「ブライトさんの言う通りだ」と偉そうにアムロに指示を出す始末。って、このガンタンクに一緒に乗る作戦の言い出しっぺはお前だろうが......。
フラゥ・ボウ + セイラ:
当然だが栄養ドリンク程度では何の解決策にも支援にもほぼほぼならない......。無力。気休め。
セイラさんは冷静に作戦を伝えているんだろうが、その「冷静」が疲れたアムロをイライラさせる。急ぐアムロに「急がないで ガンタンク発進までスタンバイです」。いや、急がないとやられるんだって.....「もうこれだ全てこれだ」と思わず言ってしまうアムロの気持ちも痛いほどわかる。
「リュウ 自信がなければいいのよ」となぜかリュウにはやさしいセイラ。ブライトもセイラもリュウには甘い。「僕だって自信があってやるわけじゃないのに...」アムロがかわいそうすぎる。
https://gyazo.com/51068e9ee732c682108e35561ff5eac9
「ブライトがはじめからはっきりしていりゃ」「女に作戦を聞くわけにはいかない」。ひどい言い草だが、これは男尊女卑というよりも、それくらいイラついてる表現として取ったほうがいいかもしれない。
鬼神の強さで、叫び声をあげながら大量のザクを破壊していくアムロ+ガンダム。帰ってきたら、みながアムロを労うのだが、アムロはそんな仲間を無視する。
https://gyazo.com/73876ad638cfde38857e9a963528e6ae
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アムロは確かに自分のことを気にかけてくれる味方には恵まれていた。が、いくら気にかけてくれてようと、ガンダムが、アムロが動かなければどうしようもないこの構造が変わらないかぎり、アムロが休める瞬間は永遠にやってこない。
十分な休息を取り気力充実のシャアと、味方には恵まれているものの一切休息が取れないアムロ。戦えば戦うほど強くなるガンダムであったが、戦えば戦うほどダメージが蓄積されるのが人間だ。シャアとアムロの対決のゆくえは?次回、7 コアファイター脱出せよに続く。
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